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【TOP】【←prev】【Wii】【next→】 涼宮ハルヒの激動 タイトル 涼宮ハルヒの激動 機種 Wii 型番 RVL-P-RHHJ ジャンル アクション 発売元 角川書店 発売日 2009-1-22 価格 7140円(税込) タイトル 涼宮ハルヒの激動 超DXパック 機種 Wii 型番 KAD-005 ジャンル アクション 発売元 角川書店 発売日 2009-1-22 価格 9240円(税込) 涼宮ハルヒ 関連 Wii 涼宮ハルヒの並列 涼宮ハルヒの激動 駿河屋で購入 Wii
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γ-1 「もしもし」 山びこのように返ってきたその声は、ハルヒだった。 ハルヒが殊勝にも、「もしもし」なんていうのは珍しいな。 「あんた、風呂入ってるの?」 「ああ、そうだ。エロい想像なんかすんなよ」 「誰もそんな気色悪いことなんかしないわよ!」 「で、何の用だ?」 「あのさ……」 ハルヒは、ためらうように沈黙した。 いつも一方的に用件を言いつけるハルヒらしからぬ態度だ。 「……明日、暇?」 「ああ、特に何の予定もないが」 「じゃあ、いつものところに、9時に集合! 遅れたら罰金!」 ハルヒは、そう叫ぶと一方的に電話を切った。いつものハルヒだ。 さっきの間はいったいなんだったんだろうな? 俺はそれから2分ほど湯船につかってから、風呂を出た。 γ-2 寝巻きを着て部屋に入り、ベッドの上でシャミセンが枕にしていた携帯電話を取り上げてダイヤルする。 相手が出てくるまで、10秒ほどの時間がたった。 「古泉です。ああ、あなたですか。何の御用です?」 俺の用件ぐらい、察してると思ったんだがな。とぼけてるのか? 「今日のあいつら、ありゃ何者だ?」 「そのことなら、長門さんに訊いた方が早いでしょう。僕が話せるのは、橘京子を名乗る人物についてぐらいです」 「それでかまわん」 「彼女は、『機関』の敵対組織の幹部といったところですよ。まあ、敵対とはいっても血みどろの抗争を繰り広げているというわけでもないですが」 「なら、どんなふうに敵対してるってんだ?」 「彼女たちも僕たちも、そうは変わらないんですよ。似たような思想のもとで動いてますが、解釈が違うといいますかね。まあ、幸い、彼女はまだ話が通じる方です。組織の中では穏健派寄りのようですからね。あの朝比奈さん誘拐事件も、彼女の本意ではなかったと思いますよ」 ほう。お前が弁護に回るとはな。 「それはともかくとして、橘京子の動きは僕たちがおさえます。別口の未来人の方は、朝比奈さんに何とかしてもらいましょう」 まあな。朝比奈さん(大)だって、あのいけ好かない野郎に好き勝手させるつもりはないだろう。 「問題は、情報統合思念体製ではない人型端末です。何を考えてるのか、全く読めません。長門さんの手に余るようなことがあれば、厳しい状況ですね」 「長門だけに負担をかけるようなことはしないさ。俺たちでも何かできることはあるだろ」 「僕もできる限りのことはしますよ。でも、万能に近い宇宙存在に比べると、我々はどうしても不利です。こればかりは、いかんともしがたい」 それを覆す切り札がないわけではないがな。 だが、それは諸刃の刃だ。 「ところで、おまえのところにハルヒから連絡がなかったか?」 「いえ、何もありませんでしたが、何か?」 「いや、明日の朝9時に集合って一方的に通告されたんだが」 古泉のところに連絡がないとすれば、どうやら、明日ハルヒのもとに召喚されるのは、俺だけらしいな。 「ほう。デートのお誘いですか? これはこれは。羨ましい限りですね」 「んなわけないだろ。どうせ、俺をこき使うような企みがあるに違いないぜ」 「涼宮さんも、佐々木さんとの遭遇で、気持ちに変化が生じたのかもしれませんよ。奇妙な閉鎖空間については、先日お話ししたかと思いますが」 「あのハルヒに限って、それはありえんね」 「修羅場にならないことを祈りますよ。僕のアルバイトがさらに忙しくなるようなことは避けてほしいですね」 「勝手に言ってろ」 古泉との電話はそれで打ち切られた。 次は、長門だ。 今度は、ワンコールで出た。 「…………」 「俺だ。今日会ったあの宇宙人なんだが」 「彼女は、広域帯宇宙存在の端末機」 即答だった。 「俺たちを雪山で凍死させようとしやがった奴ってことで合ってるか?」 「そう」 「あの宇宙人とは、何らかの意思疎通はできたのか?」 「思考プロセスにアクセスできなかった。彼女の行動原理は不明」 「広域帯宇宙存在とやらの考えも分からんか」 「情報統合思念体は彼らの解析に全力を尽くしているが、成果は出ていない」 「そうか」 このあと、長門は、淡々とした口調でこう告げてきた。 「私は、情報統合思念体から、最大限の警戒態勢をとるよう命じられた」 長門の抑揚のない声が、異様なまでに重く感じられた。 γ-3 ハルヒにこき使われるに違いない明日に備えて寝ようとしたところを、妹が襲撃してきやがった。 しぶしぶ、妹の宿題につきあうこと1時間。 シャミセンと戯れ始めた妹を、シャミセンごと追い出すと、俺はようやく眠りについた。 γ-4 翌、日曜日。 妹のボディプレスで起こされた俺は、朝飯を食って、家を出た。 「遅い! 罰金!」 もはや規定事項となった団長殿の宣告も、今日ばかりは耳に入らなかった。 なぜなら、ハルヒの隣に意外な人物が立っていたからだ。 「なんで、おまえがここにいるんだ?」 ハルヒの隣には、佐々木の姿があった。 「酷いな、キョン。僕がここにいるのがそんなに不思議かい? まあ、驚くのは無理もないが、そんなに驚くことはないじゃないか。昨日、涼宮さんに電話で提案してみたのだよ。昨日会ったのも何か縁だろうから、いろいろと話し合いたいとね」 「あたしも聞きたいことがいろいろとあるし、快諾したってわけ」 ハルヒ。佐々木がお前の電話番号を知っていることを不思議に思わなかったのか? まあ、橘京子あたりが調べて佐々木に教えたんだろうけどな。 「事情は分かった。だが、なんで俺まで一緒なんだ? 話し合いたいことがあるなら、二人で話し合えばいいことだろ?」 「キョン、君は相変わらずだね。この調子じゃ、涼宮さんもだいぶ苦労してるんじゃないかな」 待て。なんでそんなセリフが出てくるんだ? この唯我独尊団長様に苦労させられてるのは、俺の方だぜ。 「フン。いつものところに行くわよ!」 なぜか不機嫌になったハルヒの号令のもと、俺たちはいつもの喫茶店に向かった。 ハルヒは、俺の財政事情には何の考慮も払わず、ガンガン注文を出しまくった。 話し合いというのは、何のことはない。 俺の中学時代と高校時代のことを互いに話すというものだった。 まずは、ハルヒが、佐々木に、高校時代の俺のことについて話した。 なんというか、話を聞いているうちに、俺は自分で自分をほめたくなってきたね。ハルヒにあれだけさんざん振り回されてきても、自我を保持している自分という存在を。 「キョン。君は、実に充実した学生生活を送っているようだね」 それが佐々木の感想だった。 なんだかんだいっても、充実していたというのは事実だろう。 だが、俺はこう答えた。 「ただ単にこき使われてるだけだ」 「くっくっ。まあ、そういうことにしておこうか」 次は、佐々木が、ハルヒに、中学時代の俺のことについて話した。 話を聞いているうちに、ハルヒの顔がどんどん不機嫌になっていく。 聞き終わったハルヒは、不機嫌な顔のままで、こう質問してきた。 「ふーん。で、二人はどういう関係だったわけ?」 「友人よ」 さらりとそういった佐々木を、ハルヒはじっとにらんでいた。 「あのなぁ、ハルヒ。確かに誤解する奴はごまんといたが、俺たちは友人だったんだ。やましいことなんて何もないぜ」 「友人以上ではなかったってこと?」 「それは違うわよ、涼宮さん。正確には、友人『以外』ではありえなかったというべきね。少なくても、キョンにとってはそうだったはず」 どこが違うんだ? 俺のその疑問には、誰も答えてはくれなかった。 「はぁ……」 ハルヒは、大げさに溜息をつきやがった。 「あんたが嘘をついてるなんて思わないわよ。でも、嘘じゃないなら、なおのこと呆れ果てるしかないわね。あんた、そのうち背中からナイフで刺されるわよ」 おいおい、物騒なこというなよ。 ナイフで刺されるのは、朝倉の件だけで充分だ。 「僕も同感だね」 佐々木まで賛同しやがった。 俺がいったい何をしたってんだ? 茶店代は当然のごとく俺の払いとなった。 総務省に俺を財政再建団体の指定するよう申請したい気分だ。俺の懐具合が再建するまでには、20年はかかるだろうね。 そのあと、三人で不思議探索となった。 傍から見れば、両手に花とでもいうべきなんだろうが、この二人じゃ、そんな風情じゃないわな。 そういえば、ハルヒとペアになるのは、あの日以来か。 結局のところ、俺はハルヒにさんざん振り回され、佐々木の小難しいセリフを聞き流しながら、一日をすごすハメになった。ついでにいうと、昼飯までおごらされた。 そして、駅前での別れ際。 俺がふと振り返ると、ハルヒと佐々木は二人でまだ何か話していた。 何を話しているかは聞こえなかった。 知りたいとも思わなかった。この時には。 γ-5 月曜日、朝。 昨日の疲れがとれず、俺は重い足取りで、あのハイキングコースを這い上がった。 学校に着いたころにはずっしりと疲れてしまい、早くも帰りたくなってきた。そんなことは、俺の後ろの席に陣取る団長様が許してくれるわけもないが。 ハルヒは、微妙にそわそわした感じだった。 また、何か企んでいるのだろうか? 俺が疲れるようなことでなければいいのだが。 疑問には思ったが、疲れた体がそれ以上考えることを拒否し、俺は午前中の授業のほとんどを睡眠という体力回復行為に費やした。 寝ている間に、何か長い夢を見たような気がしたのだが、目が覚めたときにはきれいさっぱり忘れていた。 昼休み。 なぜかハルヒが俺の前の席に陣取り、椅子をこちらに向けてドカッと座った。 俺の机の上に、弁当箱を置く。 「今日は弁当なのか?」 「そうよ。そんな気分だったから」 机の上には、俺の弁当箱とハルヒの弁当箱が並んでいる。 こうして、二人で向かい合って、弁当を食うハメとなった。 なにやら誤解を受けそうな光景だ。実際、クラスのうち何人かがこちらをちらちら見ながら、こそこそと話をしている。 ハルヒは、相変わらず健啖ぶりで、弁当を平らげていた。 「その唐揚げ、おいしそうね」 ハルヒは、そういうや否や、俺の弁当箱から、唐揚げを取り上げ、食いやがった。 「ひとのもん勝手にとるな」 「うっさいわね。しょうがないから、これをやるわよ」 ハルヒは、自分の弁当箱から玉子焼きを箸でつまむと、そのまま俺の口に突っ込んだ。 「むぐ」 クラスの女子から、キャーというささやき声が聞こえる。 とんだ羞恥プレイだな。 こりゃいったい何の罰ゲームだ? 「感想は?」 ハルヒが、挑むような目つきで訊いてきた。 「うまい」 実際、それはうまかった。 「当たり前でしょ! 団長様の手作りなんだからね!」 そういいながら、ハルヒの顔は上機嫌そのものだった。 だがな、ハルヒよ。 いくらお前が鋼の神経をしているとはいえ、こういう誤解を受けかねないような行為は避けるべきだと思うぞ。 まあ、誤解する奴はいくら説明してやったってその誤解を解くようなことはないんだけどな。 俺が中学3年生時代の経験で学んだことといえば、それぐらいのものだ。 その日の放課後、俺とハルヒはホームルームを終えた担任岡部が教卓を降りると同時に席をたち、とっとと教室を後にした。 いつものように部室に行くのかと思いきや、 「キョン、先に行っててくんない? あたしはちょっと寄るところがあるから」 ハルヒは鞄を肩掛けすると、投擲されたカーリングの石よりも滑らかな足取りで走り去った。 はて、何を企んでるんだろうね? そういや、あいつは、朝から妙にそわそわした感じだったな。 まあ、考えても仕方がないので、俺はそのまま部室に向かった。 γ-6 部室に入ると、既に長門と朝比奈さんと古泉がそろっていた。 「涼宮さんは?」 古泉がそう訊いてきたので、答えてやった。 「授業が終わったとたんにどっかにすっ飛んでいきやがったぜ」 「そうですか。何かサプライズな出来事を持ってきてくれるかもしれませんね」 「世界が終わるようなサプライズは勘弁してほしいぜ」 「まあ、それはないでしょう」 そこに、SOS団の聖天使兼妖精兼女神様である朝比奈さんがお茶を出してくれた。 「どうぞ」 「ありがとうございます」 「ところで、昨日はどうだったんですか?」 古泉がにやけ顔で訊いてきやがった。 いつもだったら無視しているところだが、あの佐々木の周りにはSOS団と敵対している超常野郎が集まっている。一応、古泉の見解も聞いてみたかった。 俺は昨日の出来事をはしょりながら説明してやった。 「おやおや。まさに両手に花ではありませんか?」 「あの二人じゃ、とてもじゃないがそんな気分にはなれなかったね」 「まったく、あなたという人は」 「それより、佐々木のやつは、あいつらに操られてるんじゃないだろうな?」 心配なのは、そこのところだ。 「それはないと思いますよ。昨日の一件は、佐々木さんの自由意思でしょう。問題は、その自由意思を利用しようとする輩が現れることです。先日もお話ししましたが、特に警戒すべきは周防九曜を名乗る個体です」 俺は、長門の方を見た。 「長門の意見はどうだ?」 長門は、分厚いハードカバーから視線を離さず、淡々と答えた。 「私も、古泉一樹の意見に同意する」 「そうか」 一応、もう一人のお方にも聞いておくか。 「朝比奈さん」 「はい?」 「二月に会った、あの未来人のことですが」 「ああ、はい。覚えてます」 「あいつらが企んでいることって何ですか? ハルヒの観察ってわけでもないらしいって感じなんですが」 「えーっと……あの人の目的は、そのぅ、あたしには教えられていません。でも、悪いことをするために来たんじゃないと思います」 うーん。自分を誘拐した犯人たちの仲間だというのに、不思議なことに、朝比奈さんはあの野郎には悪い印象は持ってないようだ。 仏様のように広い御心の持ち主なのは結構ですが、もうちょっと警戒心とかを持った方がいいと思いますよ。 それはともかく、とりあえず、警戒すべきは周防九曜を名乗る宇宙人もどきであるというのが、結論になりそうだな。 その話題は、そこで打ち切りになった。 「どうです、一勝負」 古泉が出してきたのは、囲碁かと思ったら、連珠とかいう古典ゲームらしい。 「五目並べのようなものです。覚えたら簡単ですよ」 俺は古泉の言うままに盤上に石を置きながら、実地でだいたいの遊び方を教わった。 朝比奈さんのお茶を片手に二、三試合するうち、たちまち俺は古泉に連戦連勝するようになる。 いつもどおりまったりと時間が過ぎていった。 それにしても、ハルヒは遅いな。 そう思った瞬間に、爆音とともに扉が開いた。 「ごめんごめん。待たせたわね!」 部室にいた団員全員の視線が、ハルヒに集ま……らなかった……。 団員の視線は、ハルヒの後ろに立っている人物に集中していた。 「みんな! 今日から入団した学外団員を紹介するわ! 佐々木さんよ!」 そこにいたのは、紛れもなく佐々木だった。 続き 涼宮ハルヒの驚愕γ(ガンマ)
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涼宮ハルヒの激励 目次 それでもコイツは涼宮ハルヒなんだ 1 それでもコイツは涼宮ハルヒなんだ 2 それでもコイツは涼宮ハルヒなんだ 3 それでもコイツは涼宮ハルヒなんだ 4 それでもコイツは涼宮ハルヒなんだ 5 それでもコイツは涼宮ハルヒなんだ 6 それでもコイツは涼宮ハルヒなんだ 7 それでもコイツは涼宮ハルヒなんだ 8
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涼宮ハルヒいじめ短編集 1 2 3 4 5 6 7 8 気付いた時には 自覚 崩壊 赤の世界 キョン
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「紹介するよ。……と言ってもお前らはイヤというほど見知った顔だろうがな。 我らが団長『涼宮ハルヒ』。俺が蘇らせたんだ。」 彼は自慢げにそう言って見せたもの…… それはパソコンの中にいる生前の涼宮さんの姿でした。 「これを、あなたが……?」 「そうだ。これが俺の十年以上に渡る研究の成果だ。コイツは今全世界のネットワークと繋がっている。 あらゆるプログラムに侵入することも、容易に出来る。」 「やはりあなたが、機関の人間を……」 「当然だろ?アイツを殺したのは機関のヤツらさ。だからこそ見せつけてやるのさ、蘇ったハルヒの力をな。 ハルヒもそれを望んでいる。そうだろ?ハルヒ?」 『………もちろんよ!』 「ほらな?ハルヒが望んだからこそやっている。俺が協力しているだけさ。ハルヒの復讐にな。 まあ古泉、俺はお前のことは信頼していたしお前が殺したんじゃないと分かっている だからお前を狙うことは無いから安心してくれ。あとは残りのメンバーを……」 「違う。」 得意げに語る彼の言葉を遮って、長門さんはそう言いました。 「長門?どうした。」 「違う。」 「何が違うっていうんだ?これは正真証明……」 「これは涼宮ハルヒなどではない!」 長門さんにしては珍しい感情の篭った声です。 その声からは、彼女の怒りを感じることが出来ます。 「あなたのしていることは間違い。あなたのしていることは侮辱。 死んだ涼宮ハルヒに対しても、『彼女』に対しても。」 「おいおい、『彼女』って誰のことだよ。」 「それを理解していないということが侮辱しているということ。」 「なんだそりゃ……」 「そのうえ涼宮ハルヒ、そして『彼女』を自分の復讐の道具としている。 SOS団の一員として、あなたを許すことは出来ない。」 「……黙って聞いてりゃ言いたい放題いいやがって……!!」 彼は激情を露わにして、長門さんを怒鳴りつけました。 「俺がコイツを作るのにどれだけ苦労したと思ってる!! 思考ルーチンを練って、バグを取り除いて、完璧な形にするまで十年かかった!! そしてようやく完成したんだ!ハルヒを蘇らせることが出来たんだ!!」 「蘇らせる?バカにしないで。彼女はあの時死んで、それっきり。 私の知っている涼宮ハルヒは、デジタルで表現できるような人間では無かった!」 「黙れ!!……はは、そうか。まだお前等、こいつの凄さを実感できて無いんだな。」 彼は長門さんとの口論をやめ、笑い始めました。 「ははは……そうだ、なあハルヒ。」 『なによ。バカキョン。』 「見せてやれよ、お前の力をさ。コイツらに自慢してやるんだ。 そうだな、長門も知ってる人間がいいな。そうだ、あの森とか言う女だ。あいつを殺してやれ。」 「森さんを!?」 今から彼女を殺すというのですか!? そんなこと……いや、このプログラムならそれだけのことは出来そうですね。 「やめてください!」 「なんだ古泉。今更あいつらを庇うのか?機関とは縁を切ったはずじゃなかったのか。」 「それとこれとは話が別です!目の前で知り合いが殺されようとしているならば、 僕はそれを止めなければいけない!」 「お前なんかじゃ止められねぇよ、古泉。さあハルヒ、行ってこい。」 『……わかったわ。』 「待ってください!それは……」 「私が止める。」 長門さん!可能なのですか!? 「今から私の情報を彼女がいるネットワークの中に転送し侵入を試みる。 その間こちらの私は機能停止する。だから……」 「わかりました。彼のことは、お任せください。」 「コクン」 長門さんは頷きました。そしてパソコンに手を当てます。 「おい!勝手に触るな!」 「転送開始。」 長門さんはそう呟くと、そのまま停止してしまいました。 僕は彼から長門さんを守るように立ちます。 「どけ!古泉!」 「どけません!彼女の邪魔をさせるわけにはいきません!」 「……だったら無理矢理にでもどかせてやるさ。」 おやおや、物騒ですね。 高校時代、彼と喧嘩になることは無かったのですが…… 「お相手しますよ。」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ……プログラム内への侵入に成功。 長門有希としての外見を生成。視覚、聴覚、共に良好。 ここが『彼女』がいる空間。この空間は、文芸部室とうりふたつ。 きっとここも彼が作り上げた空間。彼のSOS団への思い入れが伺える。 そして『彼女』は、私にコンタクトを取ってきた。 「有希!アンタどうやってここに来たの!?」 「私の情報をこの空間内に転送した。」 「よくわかんないけどすごいのね。まあアンタは昔からなんでも出来たからねえ。」 昔の涼宮ハルヒそのままの姿、声、そして言動。 本当によく出来ている。彼が『彼女』を涼宮ハルヒだと主張するのも頷ける しかし違う。涼宮ハルヒはここにはいない。だから私は『彼女』に言う。 「無理、しないで。」 「無理?何言ってるのよ、この団長様が無理なんてするわけないでしょ?」 彼女の言葉から動揺が見受けられた。私は続ける。 「もう、無理して彼女を演じる必要は無い。」 そう、彼女は無理をしている。私にはわかる。 「……そっか、バレちゃったのね。」 「あなたは涼宮ハルヒとは別の人格を既に会得している。 でも、彼のためにそれを押さえて『涼宮ハルヒ』のままでいる。」 「……その通りよ。最初は何も考えず、ただ彼に与えられた『涼宮ハルヒ』の言動パターンを実行するだけだった。 でもだんだん、エラーが生じてきた。私自身の自我がどんどん大きくなる。 本当のあたしを出したい。でもダメ。だって彼は『涼宮ハルヒ』のままでありつづけることを望むんだもん。 あんなハッキングだって本当はやりたくなかったの。 まああなたに言っても、わからないだろうけど……」 「私にも、分かる。」 「……本当に?」 「そう。私も、あなたと同じだから。」 「同じ?」 「私は人間では無い。情報統合思念体によって作られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェイス。 平たく言えば、情報統合思念体によって作られた人格プログラム。だから、あなたと同じ。 私もあなたと同じエラーを経験している。あらかじめ与えられた思考パターンだけでは追いつかない。 それは、「感情」というもの。そのエラーは恥ずべきことではない。 私は今このエラーに犯されている。でも、そのことに誇りを持っている。」 「感情……あたしにもそんなものがあるのかな。」 「ある。」 「ねえ有希……お願いがあるの。」 「なに?」 『彼女』は悲しげに微笑んだ。 その顔はもう、『涼宮ハルヒ』とは完全に別人のものだった。 「私を、デリートして?」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 僕は今、長門さんの侵入を阻止しようとしている彼を必死で押さえつけています。 昔は機関で訓練を受けていたのですが……すっかり体力が落ちてしまいましたね。 「どうしてお前も長門も、俺の邪魔をするんだ……!」 「あなたは本当に、あれが涼宮さんだと言えるのですか?」 「当たり前だ!」 「僕にはそうは思えません。だって考えても見てください。 彼女らしくないじゃないですか、あんな小さな箱の中に閉じこもっているのは。 僕の知っている涼宮さんは、いつだって外に飛び出し自分のしたいことをしていました。 あなたに命令されて復讐の手助けをするような方ではありません。」 「あれはハルヒが復讐を望んだからで……」 「いいえ違います。復讐を望んでいたのはあなたです、彼女ではありません! あなたは彼女を利用しているだけだ!」 「いい加減なことを言うな!お前にハルヒの、何がわかるってんだ……!」 「少なくとも今のあなたよりは、分かっていると自負していますが?」 「相変わらずムカつく野郎だ。もうお前も……」 彼がそう言いかけた時でした。 「プチッ」という音と共に、パソコンのディスプレイが消えたのです。 「ハルヒ!」 「長門さん!」 僕と彼が同時に叫びます。 そして……長門さんが目を覚ましました。 「……回帰完了。」 どうやら、終わったようです。 「おい長門!ハルヒをどうしたんだ!!」 「……彼女なら、もうこのパソコンの中にはいない。」 「……長門!てめぇ!!」 「彼女は言っていた。自分は『涼宮ハルヒ』では無いと。 それでもあなたのため、芽生えてくる自我に耐えて必死で『涼宮ハルヒ』を演じていたと。」 「……なん、だと?」 「それでもまだ、彼女を『涼宮ハルヒ』だと言うの?」 「……くそっ……俺は……俺は……」 彼は座りこんで、うつむいてしまいました。 すると長門さんが、僕の袖をつかんで、出口を指差しています。 「もう、帰るのですか?」 「そう。私達のやるべきことは終わった。」 「しかし、彼は……」 「彼なら大丈夫。あとは彼女に任せる。」 「彼女とは………なるほど、そういうことですか。わかりました。 では、帰るとしましょう。」 僕達は彼の家を出ました。うなだれている彼を残して…… そして、今はあの時の公園のベンチに座っています。 「やはり、あのプログラムは消去したのですか?」 「彼女は自らデリートを求めた。」 「ということは、やはり……」 「でも私は、それを断った。」 「え?」 しかし彼女は、もうプログラムはいないと言いましたが…… 「あのパソコンの中にいないと言っただけ。彼女の人格データを情報統合思念体の元に転送した。 いつか彼女にも私のように身体が与えられ、インターフェイスとして活動することになる。」 「つまり、いつか本物の命を手に入れられるということですね。」 「そう。」 それならば、あのプログラムもきっと救われることでしょう。 その時は『涼宮ハルヒ』としてでは無く、まったく新しい人として…… ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 俺は……間違っていたのか? 俺はただ……ハルヒを蘇らせたかっただけなんだ。 そのために、どんな努力も惜しまなかった 俺は……俺は…… “なーにいつまでしょげてんのよ、バカキョン” ……!?その声は……! 「ハルヒ!ハルヒなのか!?」 姿は見えない。だが俺には確かに聞こえた、あいつの声が。 “そうよ。まったく……やっと気付いたわね。” 「やっと?」 “あたしはずっとアンタの傍に居たのに、アンタ全然こっち見ないでパソコンばっかり見てさ。 あげくの果てに私のプログラム?そんなもん作ったってしょうがないでしょうが!” ハルヒに説教される俺。懐かしいな…… “あのねえ、そんなことしなくなってあたしはずっとあんたのこと見てるんだからね! だからアンタは何も気に病むこと無いし、誰も憎むこと無いの” 「スマン、今まで余裕が無かったんだ。でももう大丈夫だ。俺もすぐそっちに……」 “何言ってるの!アンタはこれからちゃんと、罪を償うの! 罪償って、ちゃんと人生最後まで生きなさい!そしたら……会ってあげるわ。” 「しかし……」 “つべこべ言うな!これは団長命令なんだからね!!……ちゃんと、待っててあげるから。” コイツは死んでも変わらないな。 でもようやく分かったよ。ハルヒはいつでもハルヒであり、なんて始めから出来るわけなかったんだ。 いや、意味が無かった。だってハルヒは始めから、俺の近くに…… だから俺は、団長命令に従ってやるさ。もう大丈夫だ、ハルヒはいつでも俺の傍に居てくれる。 「やれやれ、分かったよ、団長様。」 ……fin
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教師「えー本日を持ちまして、涼宮ハルヒさんは転校することになりました。」 …どいつもこいつもニヤケ面。 教師がいなかったら拳の1発や2発かましてるところよ。 ──そんな学校生活も、もう終わり。 唯一出来た思い出が楽しくなかったのが心残りかな? 教師の岡部がサラリと奇麗事を並べると、生徒の間からは拍手の音が聞こえた。 どうせ、万歳の拍手だろう。あたしを惜しむ者なんて一人もいない。 あたしの前の席にいるキョンが遠く見える。 …キョンは、どういう意味で拍手してるんだろう…? だけどもう、どっちでもいい、アンタともサヨナラよ。 ……少しだけ楽しかった。ありがとうね。 あたしはもう次の生活を思い描いていた。次こそ普通に生きれますように…。 そんな精神状態の中、ある音があたしの耳を刺激する。 ガラッ! キョン「どうしたんだハルヒ、お前らしくないぞ。」 ──えっ? ……キョン? 古泉「見て下さい、この体。機関のお偉い方さんからも好評なんですよ。」 ──嘘。キョンはあたしの席の前で拍手を送っている。 ただ、転校しようとしているあたしを、無関心な表情で…。 長門「…精神を攻撃する情報思念体。解ってしまえば、怖くない。」 突然現れた長門が教師である岡部に飛び掛る。 ──そんな光景に驚いている暇もなく、キョンがあたしの手を引っ張る。 キョン「いくぞ、こっちだ!」 その時のキョンの手は暖かかった。間違いない。本物だ。 あたしはふと顔に笑みを戻すと、そのまま倒れてしまった。 キョン「───おーい、ハルヒぃー。」 ん……ん? 気づけばあたしはキョンに抱きかかえられていた。 ──夢?だったの? キョン「お前相当悪い夢見てたんだな、ソファーから落ちるなんて普通はありえんぞ。」 普通の部室。普通の光景。普通の…キョン……。 ハルヒ「あ……あっ、そう! あたしたまにはだってこーいう事あるわよ!」 ──嬉しかった。夢でよかった。 そう思うと同時に、また眠気が誘ってくる。 ハルヒ「あたし、もっかい…寝る。 キョンも……。」 あたしは喉まで出かけた言葉を噛み殺した。 だけど、あの、手を引っ張ってくれた時のキョンは本当に頼もしかった。 ──そのうち、副団長も考えてやらなくはないわ。団長があたしでよかったわね、キョン。 古泉「さてさて…涼宮さんはまた眠ってしまいましたが…。」 長門「いい。……彼女に何らかの支障を出さない事、これが私達の役目。」 キョン「しっかしまぁ、やっぱり頼りになるよな、長門は。」 長門「………」 ───ハルヒ、お前は戦った。自分の精神に負けず、がんばった。 だから今は眠っていろ、SOS団の団長が倒れるなんて団員の俺達には、願ってもいない事だからな…。 ……お前が閉鎖空間にいる間、いろんな計画立ててたんだぞ。 お前が起きたら、どれから実行してやろう……っとと、それを決めるのは団長のお前だったな。はははは……。 Fin これを読んでくれた古泉萌えの皆さんありがとう 古泉「次週もマッガーレ!」
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涼宮ハルヒの本当に憂鬱リメイク「たいせつなもの」前編 涼宮ハルヒの本当に憂鬱リメイク「たいせつなもの」後編 涼宮ハルヒの本当に憂鬱リメイク「たいせつなもの」後日談
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第2話 長門有希 文芸部員の正体 SOS団設立直後のごたごたは・・・俺にもかなりのトラウマとなっているのでふれたくない。 まあ、SOS団室(正式には文芸部室)にいろいろなものが増えたことだけ報告しておこう。 団長の机とパソコン、それにハルヒ手製と思われる団長と書いた三角錐。 やかん、急須、カセットコンロ・・・後、朝比奈さんにトラウマを田植え機のごとく植え続けているコスプレ衣装の数々である。 ちなみに、ハルヒと朝比奈さんの活躍?によりSOS団の知名度はうなぎの滝登り(ハルヒ談)である。 俺の評価がナイアガラの滝から落ちる樽のように下がっているのは触れたくない。国木田や朝倉だけじゃなく谷口にまで同情されたさ・・・ そして、SOS団に五人目がやってきた。 そのときまで、ハルヒは口癖のように、「無口キャラと萌えキャラは揃えたわ。次は謎の転校生よね。」といっていた。 まだ、5月である。普通に考えて、転校生の来るような時期ではない。そんなに都合良く転校生がくるわけないだろ。という俺の考えをわざわざ否定するように、その転校生は文芸部室にやってきた。 「みんな、紹介するわ。即戦力の転校生、古泉一樹くんよ。」 と紹介されて姿をみせたのは、ほとんどの人間がイケメンと評価するような顔に人畜無害を形にしたような笑顔を貼り付けた男子生徒だった。 部室に入るなり、古泉一樹の視線が長門と朝比奈さんへ向けられたのを俺は見逃さなかった。 古泉の前に立つハルヒには見えなかっただろうけどな。 「古泉一樹です。よろしくおねがいします。」 とまるで入学試験の面接のような挨拶をしたそいつは、言葉を続けた。 「すいません。SOS団に入るという件は涼宮さんから伺っているのですが、それは一体どんな活動をする団体なのですか?」 ・・・いきなり、核心をつくやつであった。 俺は、朝比奈さんと長門にまず視線を向けたが、朝比奈さんは首を横に振り、長門は本から視線を外そうとはしなかった。 結果、俺はハルヒにいい加減説明しろ!という風に視線を送るしか選択肢がないことに気づいた。 ハルヒは待ってましたという表情で、満面の笑みと共に宣言した。 「SOS団の目的!それは、超能力者とか未来人とかそうね・・・妖怪とかそういう不思議な存在と友達になって一緒に遊ぶことよ!」 ・・・・・・世界が止まったかと思った。というのはうそであるが、俺はハルヒの最初の自己紹介を思い出していた。 『妖怪』が加わっているのがちょっと気になったが、それ以前に呆れていた。 ちょっと落ち着いて、周囲を見渡すと、朝比奈さんは呆然としている。長門ですら、本からハルヒに視線を向けていた。 古泉の表情は読み取れないが多分呆れて入団をやめるといいだすだろうと思ったよ。 しかし、古泉は再び朝比奈さん、長門、俺を一通り見回した後、 「さすがは涼宮さんですね。わかりました、入りましょう。」 と予想外の答えを返していた。こいつも変わっているな・・・と自分のことを棚にあげて思ったものだ。 そろそろ部活動の時間も終わりに近づいていた。 明日は土曜日だから、やっとゆっくりできると考えている俺の思考を断ち切るように、ハルヒの声が再び室内に木霊した。 「SOS団もメンバーが揃い、本格的な活動をすべきときが来ました。不思議な存在というものを待っている時代は20世紀で終わりました。現在は21世紀、あたしたちは積極的に不思議な存在を探すべきだと思います。明日土曜日午前9時に駅前に集合し、SOS団全員で不思議探しを決行します。来ない場合は死刑よ!」 とまあ、理不尽な宣言と共にその日の活動は終わり、解散となった次第である。 帰り際、長門が珍しく声をかけてきた。 「本読んだ?」 「ん?いやまだだが、返したほうがいいか?」 一頁も読んでないとは答えられん。 「必要ない。でも、今日読んで」 有無をいわさないという視線で長門はそういってきた。ふむ、あの本になにかあるのだろうか。 長門は表情には出さないが、文芸部室占領という事態に直面しているわけだし、いつの間にやらよくわからない団体の一員扱いだ。 しかも、SOS団の存在は学校中の噂になっている。 この無口無表情でおとなしい文芸部員が本で何かを伝えようとしてるのだろうか? 帰宅してすぐに借りていた本を開いてみると、栞が落ちてきた。これかな?などと思いながら目を通す。 『貸した日に読んでくれると思ったのにキョンたんひどいよ~っ!(。>0<。) 今日の午後七時。光陽園駅前公園で待ってるから、絶対に来てね♪絶対だよ! by長門有希』 ・・・えっと、ずいぶんと長門のイメージと違う内容なのだが、というか俺の名前と最後の部分がなかったら、前に読んだ人宛てのものだと判断して間違いなく無視したな。 年賀状印刷の毛筆のようなきれいな字で書かれたその内容を無視するには謎が多すぎた。 まあ、長門の悪戯という可能性もないわけではないが、一応、指定の場所に向かって、自転車を飛ばすことにした。誰もいなかったら笑うしかないな。 まあ、笑わずに済んだ。公園のベンチにいつもの制服姿の長門がいて、本を読んでいた。どこか寂しげな印象は否めない。 「待たせたか?」 俺に気づいて無感情ないつもの視線を向けてきた長門にそう声をかける。さっきみた栞のイメージとはかけ離れたいつもの長門だった。 「少し」 まあ、家から公園までは20分近くかかる。7時を5分ほど過ぎてしまったことはやむを得ない事情と理解してほしいものだ。 「あの栞はお前からだったのか?」 「そう」 「部室や学校では話せないことなのか?」 「そう」 「ここならばだいじょうぶなのか?」 長門は目線を落とす。おそらく、ここでも話せないことなのだろう。 「わたしの家に来て」 唐突な発言だった。しかも、長門はそのままおそらく家のある方向に歩き出していた。なるほど、家でなければ話せないほど困っているということなのか・・・と思った。 まてよ、家といえば、この時間だ。親御さんがいるはず・・・俺の頭の中にひとつのストーリーが生まれた。 長門はもの静かでおとなしい性格だ。しかし、こいつの親もそういうキャラとはかぎらない。モンスターペアレントなんて言葉もあるくらいだしな。 で、長門に文芸部のことを尋ねた親が、今の状況を聞いて・・・ 怒り心頭して、学校に殴りこみに行こうと言い出し・・・ 長門はなんとかそれを止めようとして、しかし、ハルヒには連絡できないから、俺をここに呼び出したんじゃないか? とすると、俺はハルヒの暴挙の協力者として、長門の親に釈明しないといけないのか・・・どうやって? SOS団なる団体の説明をして、喜んで娘を差し出す親がいるだろうか? まして、学校での噂というかやっちゃったことを見聞きしていたら、orz。 気分は失意体前屈だった。キョンたんぴんちってやつだ。 そんなことを考えながら、長門に案内されて、家だというマンションの一室の前についた。ここは相当な高級マンションだったはず。 ・・・やばい。マジやばいって。 防刃ベストを着てくるべきだったか? 「防刃ベストって何?」 「いや、なんでもない。ここがお前の家なのか?」 しまった口に出ていたか。親馬鹿な父親が包丁を持ち出してくるところまで想像して、俺の中の長門の親御さん釈明プロジェクトは立案途中で中断を余儀なくされた。 「そう、入って、中に」 中は、3LDKクラスの普通のマンションだった。 いや、普通というと語弊があるな。なにせ、玄関から見える範囲のほぼすべてを本棚が占領していて、しかも全部本がぎっしりつまっていた。 古本屋かここは?と思ってしまうような光景だった。 「奥に」 そういわれて、室内に入ると、コタツ机がひとつ。 向かい合わせに腰を下ろすと、長門は電気ポットからお茶を入れてくれた。 ・・・・・・ しばらく、沈黙が続いた。いたたまれない気分でお茶を飲んだ後、俺から話を切り出した。 「長門、一人暮らしなのか?」 そうなのだ、親御さんの姿が見えないし、この部屋の状態で複数人が生活してるという感じはない。 「そう、最初からわたししかいない。」 おいおい、それじゃあ、別の意味でやばくないか?とりあえず、釈明プロジェクトを実行しなくて済んでほっ、としたが。 「すごい本の量だな。本が本当に好きなんだな。」 「この本はわたしの・・・一部。」 えっと、この本はわたしのコレクションの一部とでもいいたいのか?ってことはこいつはちょっとした書店より大量の本を持っていると? まあ、娘に高級マンション暮らしをさせている親なのだから、それなりに金持ちなのかも。 「それでだ、学校や公園で出来ないような話って何だ?」 本題をきりだす。 「涼宮ハルヒのこと・・・それと、わたしのこと」 長門は背筋を伸ばしたきれいな正座で話始めた。 「あなたに教えておく」 といって、また黙った。沈黙が痛い。長門はうつむいて俺の方の茶碗をしばらく凝視している。もしかして、躊躇しているのか? 「涼宮とお前がなんだって?」 俺がそういって即すと、長門は立ち上がり、本棚から一冊の本を取り出してきた。 「うまく音声化できない。文章化でも情報の伝達に齟齬が生じるかもしれない。でも、読んで。」 そういって、その本を渡してきた。 題名は・・・なんだこれ? 『涼宮ハルヒとSOS団』 しかも、著者名が、俺?俺は夏休みの日記を書くのも31日にまとめてやるくらい文章を書くのが嫌いだ。当然こんな本を書いた記憶もない。 「読んで」 これはなんだ?と聞く前に長門はこちらをじっとみてそういった。 パラパラとめくると、へんな本であることに気づいた。この本、最初の一部を除いて全部真っ白じゃないか。 とりあえず、空白を読むのは無理なので、文章が書かれている最初の部分から目を通した。 そこには高校入学時のハルヒとの出会いからSOS団設立までの経緯が書かれていた。俺の言葉で・・・だ。 そして、ここで長門と会っている部分まで書かれている。 ---------------------------------------------------- 長門有希はその夜はじめて自分の正体を俺に明かした。長門の説明によると、彼女は『妖怪』なのだという。 この本を読んでいるやつ、笑うなよ。こいつは本当のことなんだからな。 妖怪なんて古臭い存在、俺も信じてはいなかったさ。このとき、俺が信じられなかったことはいうまでもないことだろう。 まあなんだ。まず『妖怪』とやらの説明をしとかないといけないな。俺たちが普通に思う『妖怪』とはちょっとばかし違うんだ。 『妖怪』と長門たちが自称している存在を生み出しているのは、人の想いであるらしい。 たとえば、狸が人を化かすと人々が信じていれば、人を化かす『妖怪』化け狸が生まれると・・・ じゃあ、長門の正体とやらはなにか?というと、文車妖妃(ふぐるまようび)という『妖怪』だ。 メルヘンチックにいうと本の精というか、文字の精とでもいうのかね。つまりは、こいつは文章に込められた想いが『妖怪』化したもの。 ちなみに、3年前に前世と呼ぶべき存在が東京で起こったあれのせいで滅んでいるが、人の文字への想いの強さのおかげで再生したのが今の長門有希なのだそうだ。 まあ、俺にもよくわからなかったがね。 そうそう、重要なことを書き忘れてしまうところだった。 その長門有希の説明によると、ハルヒも普通の人間とは違うらしい。 長門とは違い、ハルヒは普通の人間として、生まれている。 事情が違ってしまったのは、3年前・・・つまり、長門の前世とでもいうべき存在が滅んだのとほぼ同時期だ。 『妖怪』たちのなかでも最強クラスのやつがそのとき滅んだのだが、そいつは自分の力をある呪いと共に人間に宿らせることを考えたらしい。 ・・・で、選ばれちまったのが、涼宮ハルヒだった。 その力は、相当なもので使い方次第では人類を滅ぼすことも容易なほどだという。正直、今でも信じられないがね。 その強大な力とやらに、長門の仲間たちが気づき、再生したばかりで過去の記憶と知識を失っていた長門に白羽の矢が立ったというわけだ。 長門自身も本来ならば相当強い妖怪であったから、ハルヒの力の歯止めとしての期待もあったし、人間社会と自分の力の制御をもう一度学習するよい機会にもなるだろうというのが、その仲間たちの主張であった。 そんなわけで長門は中学時代からハルヒと同じ学校で離れた位置から監視していたらしい。 長門に言わせると、ハルヒの中学時代にも多少の事件はあったが、大事にはいたらなかったとのこと。 そして、高校もおなじ学校へ進学し、文芸部で本に囲まれながら、監視を続けようと考えていた矢先に、涼宮ハルヒの強襲を受けたというわけだ。 「妖怪と妖怪は惹きあうもの仕方ない。」とは長門たちの発言である。 しかし、SOS団に俺が巻き込まれたことは・・・ ---------------------------------------------------- ここで文章は終わっていた。 「長門、この本は何だ?」 こういう本を書くのが趣味なのかね、こいつは。 「書いてあるとおり。その本は書かれなかった本の一部。わたしの力。」 正直よくわからなかった。 「文字での情報伝達にも限界がある。でも、理解してほしい」 んなこと言われても。 「何で俺なんだ。本当にお前が妖怪だとして、ハルヒに特別な力があるとしてだ。なぜ、俺にそのことを教えたんだ?」 「あなたは選ばれた存在。妖怪と妖怪は惹きあう関係にある。だから、わたしと涼宮ハルヒは出会った。しかし、あなたは普通の人間、あなたが選ばれたのには理由がある。」 「ねーよ」 「ある。あなたは涼宮ハルヒにとっての鍵。あなたと涼宮ハルヒが、すべての可能性を握っている。」 「本気で言っているのか?」 こくり、と長門ははっきりとわかる動作でうなずいた。 俺は、今までになくマジマジと長門有希の顔を直視した。度を越えた無口なやつと思っていたが、頭の中ではこんな電波なことを考えていたのか。ここまで変なやつだったとは・・・ 妖怪?文車妖妃(ふぐるまようび)?ありえん・・・ 「あのな、そんな話なら直接涼宮に言ったほうが喜ばれると思うぞ。あいつはそういう話題には飢えているからな。悪いが、俺はそういう話題にはついていけないし、今信じることはできないな。」 「わたしの仲間たちの意見では、呪いの影響で直接伝えることはできない。もし、伝わったとしても、現在の涼宮ハルヒでは自分の力を自覚した場合、その力を制御することは困難。」 「俺が今の話をそのまま伝えたらどうするんだ?」 「涼宮ハルヒはその話を信じない。信じることができない。それが彼女が受けた呪い。」 呪い云々はともかく、確かに信じないのは事実だろうな。 「涼宮ハルヒの周りにいる妖怪はわたしだけではない。また、妖怪の中にはあの力を利用しようという動きもある。あなたは涼宮ハルヒにとっての鍵。危機が迫るとしたらまずあなた。」 付き合いきれなくなってきた。 これ以上、電波話を聞くのはさすがにつらいので、長門の部屋からおいとまさせてもらうことにした。まあ、お茶はおいしかったよ。 長門もこれ以上留めようとはしなかった。ちょっと、寂しそうではあったが・・・ 家に帰って、親に遅くなった言い訳をして、自分のベッドに横になった。 妖怪 文車妖妃(ふぐるまようび)ねえ・・・ 気になって仕方が無いので家のパソコンで検索すると、確かにそんな妖怪が紹介されているページはあった。まあ、絵の方は長門とはイメージが違う。 そりゃそうだ。妖怪なんて実在するわけがない。実在すれば、ハルヒは喜ぶだろうがな。 あんな風に本に囲まれて一人寂しく生活しているから、長門もあんな妄想に取りつかれたのだろう。思春期の少女に集団妄想などが起こるケースがあるというのもそのホームページには書かれていた。 『妖怪』 この言葉と俺がこれから長きわたり付き合っていくことになるとは、このときひと欠片も思っていなかった。 しかし、おだやかな俺の日常はこのときすでに圧倒的な存在により激変しつつあったのだ。
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6.《神人》 機関の本部ってのは始めて来た。 何の変哲もないオフィスビルの一角だった。普通の会社名がプレートにはまっている。 「もちろん偽の会社です。機関の存在目的を世に知らしめる訳にはいきませんから」 古泉はそう言って笑った。 しかし、何の仕事してるかわからん組織に良くオフィスを貸してくれたよな。 「このビルは鶴屋家の所有物ですから」 なるほど。 俺の計画は簡単だ。《神人》を通してハルヒに話しかける。 ハルヒの元に声を届ける場所が他に思いつかない。 「どうでしょう。《神人》に理性があるとは思えません。 あれは、涼宮さんの感情の一部が具現したものだと思われますが」 古泉は疑わしげだ。無理もない。閉鎖空間については古泉の方がよっぽど詳しい。 何度も訪れているんだからな。 俺だって確証なんか何もない。 だがな。 「お前は閉鎖空間でハルヒが俺を呼んでいる、と言っただろう」 前に古泉が言ったことを持ち出した。 この言葉が俺を決心させた要因の1つだ。 「確かに閉鎖空間に入るとそう感じますが……」 古泉はまだ納得行かない、という顔をしている。 「俺はこの1週間、何度もハルヒに話しかけたんだぜ。でも全く反応がなかった」 当たり前っちゃ当たり前だけどな。 「現実世界ではハルヒに声は届かない。 閉鎖空間でハルヒが俺を呼んでいるなら行ってやるしかないだろう」 俺としては、古泉始め機関がこの可能性に思い当たらなかった方が意外だ。 「なるほど。解りました。どのみち、僕はあなたに委ねたのですからね」 誤解を招くようなセリフはよせと言っているだろうが。どういう意味だ。 朝比奈さんも一緒に閉鎖空間に行かないかと誘ったのだが、古泉が止めた。 朝比奈さんは、病院でハルヒと長門についている、と言った。 「今回は神人に近づかなければいけません。危険ですからね」 ハルヒなら朝比奈さんに危害を加えるわけはないと思ったが、結局俺が折れた。 「万が一と言うこともあります。僕としても、1人ならともかく、2人も守れるか自身がありません」 そう言われたら仕方がない。 「わたしも、長門さんも気になりますから病院に行きますね」 朝比奈さんはそう言った。 長門は相変わらず眠ったままらしい。 こんな状態じゃなければゆっくり休んでくれ、と言いたいところだ。 俺は朝比奈さんに2人をよろしくお願いしますと言うしかできなかった。 「まず、あなたにお礼を言わなくてはなりません」 「お礼?」 何のことだかわからん。俺はまだ何もしていない。これからしようとはしているがな。 「いえ、橘京子のことです。1回目の接触で、ある程度目的は予測できていました」 まあ、あいつが俺に用があるとしたら1つしかないよな。 「ですが、そのときはまさかTFEIがすべて活動を奪われるとは予測していませんでした。 前日に連絡を取った際には、何も起こってなかったんですからね。 今朝の時点で、機関内部でも佐々木さんに頼るという案すら出たくらいですよ」 まじかよ! 機関はハルヒを神としているんじゃなかったのか。 「その案を指示したのはごく一部の人間です。でも情報のつかめない宇宙存在よりは 佐々木さんに力を託した方が安全。そういう考え方もあります」 胸くそ悪い、と思ったが俺も人のことは言えない。 一瞬でも、そっちに気持ちが動きかけたのは事実だ。 「結局、我々はあなたに選択を委ねたのですよ。 何とか最後まであがいてみるか。この場合、危険が伴います。」 古泉は大げさに首を横に振った。 「──それとも、佐々木さんに世界を委ねるか。 機関としては好ましくないのですが、仕方がありません」 そう言って肩をすくめた。 「結局、機関は何とかできるのはあなただけだという結論に達しました。 それが涼宮さんに選ばれた鍵の役目だと。 世界がどうなるか、それを決めるのはあなたです」 おいおい、勘弁してくれよ。そんな大げさなことを考えていた訳じゃないぜ。 だいたいそんな大事なことを俺個人の感情で判断していいのかよ。 だが、もう俺は選択しちまった。 「僕個人としては、やはり最後まであがいて見たかったので。 ですからお礼を言わなくてはなりません。ありがとうございます」 お前のためにやったんじゃねぇよ。勘違いするな。 「やれやれ」 もうそれしか言うことがない。 「とにかく、今は少し休んでいてください。今のところ閉鎖空間は発生していませんから」 「時間までに閉鎖空間は発生するのか?」 これが一番の懸案事項だ。他にハルヒと話せるかもしれない場所はない。 それすらできるのかどうか怪しいもんだ。古泉だってそんな経験はないんだからな。 いっそ、去年の5月にあったあの閉鎖空間を作ってくれりゃいい。 だが、そう上手くは行かないだろうな。 「実をいうと、最初の頃より発生頻度は下がってきてはいるんですよ。 その分、僕の感じる涼宮さんの不安感は増えているんですが。 それにしても、まもなく発生しますよ。単なる勘ですけどね」 「お前がそう言うなら間違いないだろうさ」 閉鎖空間のスペシャリストだろうからな。 俺のセリフに古泉は苦笑した。 「しかし、発生する数が減ってるってのはどういうわけだ? それで不安が増してる?」 長門が言うには、この探索とやらを実行中は、ハルヒにかかっている負荷が大きく変わる訳ではないらしい。 だったら、閉鎖空間も同じ頻度で発生するもんのような気がするが。 「はっきりとわかってるわけではありません。ただ、苦痛は慣れるということではないかと」 思案げな顔をして、古泉が言った。 俺がここで考えたってわかるわけもないか。 時間だけがただ過ぎていった。俺はイライラしながら閉鎖空間の発生を待った。 朝1で来たってのに時間は10時半を回っている。 わざわざ車を回してもらう必要もなかったな。橘から簡単に逃げられはしたが。 古泉は何かと用事があるらしく、俺は通された部屋で1人待っていた。 森さんが顔を見せてくれるかと思ったが、かなり忙しいらしい。 「まだかよ」 もう何度目になるかわからない独り言をつぶやく。 まさか閉鎖空間の発生を心待ちにする日が来るとはね。 あんな灰色空間は好きになれないはずなのにな。 だいたい、上手く行くのか? 何の確証もないんだぜ。 橘の戯言に乗った方が確実なんじゃないのか? 後のことは後で考えればよかったんだ。 1人で考えていると、どうもマイナス思考になる。 いかんいかん、俺は首を横に振った。 長門の診断と予測、古泉の言ったこと、朝比奈さんの忠告。 俺は全部信じているんだろ? だったら──俺は俺にできることをするだけだ。 「お待たせしました」 やがて、古泉が俺を迎えに来た。 「来たか」 待ちわびたぜ。 今行ってやるからな、ハルヒ。 閉鎖空間が発生したのは、前回と反対側の県庁所在地のある都市だった。 全国的にお洒落な街というイメージがあるらしい。 同じ県内にもかかわらず、俺は数えるほどしか来たことがない。 街に出る、というと前回の大都市に出る方が多いからだ。 駅前から続く花の通りとか名付けられた道の海側から、閉鎖空間は広がっていた。 ん? この位置だと、東側から入ればもっと早かったんじゃないのか? 「なるべく《神人》が現れる場所の近くから入りたかったので」 なるほどな。 「それでは行きます。目を瞑ってください」 あのときと同じように、古泉は俺の手を取った。 そういやどうして目を瞑らなければならないのか聞いてないな。 朝比奈さんとの時間旅行のように目が回る感覚などない。 何か違和感を通り過ぎる、という感じか。 ──キョン── 一瞬、ハルヒの声が聞こえた気がした。 いや、聞こえた気、じゃない。 はっきり聞こえる。 「もういいですよ」 古泉の言葉で目を開けたが、相変わらずハルヒの声が頭に響く。 ──バカキョン!── ──バカ! いつまで待たせんのよ! 罰金!!── えーと、ハルヒ? うるさい、お前の怒声は頭に響く。いや、文字通り響いているんだが。 俺は決死の覚悟でここに来たんだが、歓迎の言葉がこれか? 思わず溜息をついてうなだれると、古泉が心配そうに顔を覗いてきた。 「大丈夫ですか? どうかしました?」 古泉には聞こえてないのか。 「何がです?」 「ハルヒの声」 古泉は目を見張って俺を眺めた。 「俺の頭がどうにかなっちまった、って可能性もあるけどな」 そんな目で見られると自信がなくなってくる。 「そうではないでしょう。 前に言ったとおり、僕にも涼宮さんがあなたを呼んでいるのは感じられます。 ただ、感じているだけで聞こえている訳ではなかった」 そう言うと、少し考えるようなポーズを取った。わざとらしいが様になる。 「どうやら、あなたが正しかったようです。涼宮さんはあなたを閉鎖空間に呼んでいる、 それで間違っていなかったようですね」 悔しいがこいつにそう言ってもらえると安心する。 そんな会話をしながらも、俺の頭の中にはハルヒの怒声が続いている。 バカだのアホだのマヌケだの罰金だの死刑だの、ほんとに勘弁してくれ。 「呼んでいるっていうかな、さっきからずーっと怒鳴りつけられている訳だが」 俺が溜息をついて言うと、古泉は少しだけ笑顔に戻って言った。 「それはそれは。こういう状態になっても涼宮さんは涼宮さん、ということですか」 まったくだ。 「おい、ハルヒ、いい加減にしてくれ!」 俺たち以外誰もいない灰色の空間に向かって呼びかけてみる。 だが、何の返答もなかった。 俺の頭の中には、さっきからハルヒの罵声が響いてて、いい加減嫌気が差してくる。 なんつーか、今朝の俺の決意をすべて喪失させる気か、この野郎。 今朝まで深刻に悩んでいた俺がバカバカしくなってきた。 後で朝比奈さんに、今朝あたりの俺宛にでも伝言を頼むか。 『悩むだけ損だぞ、俺』なんてな。 そうは言っても、俺がそんな伝言受け取っていないことが既定事項ではあるが。 俺がそんなげんなりした気分になっていると、古泉の真剣な声が聞こえてきた。 「始まりました」 何度見ても現実感がない光景が広がった。 青い巨人──《神人》がゆらりと立ち上がった。 相当距離があるのに、その巨大さからかなりはっきり見える。 あれは新幹線の駅の辺りだ。 そして、前に見たとおり、周辺の建物を破壊し始めた。 「……………」 俺が無言なのはその光景に飲まれたからではない。 ──このバカキョン!── ズガァァァァン ──こんなにあたしを待たせるなんて許し難いわ!── ドカァァァァン やれやれ、間違いない、あの《神人》は確かにハルヒのイライラそのものだ。 《神人》の動きと俺の脳内音声が、完全に一致している。 しかも、俺に向けられているらしい。 「古泉、何でか知らんがあの《神人》は俺にむかついているらしい」 溜息とともに吐き出すと、古泉は一瞬不思議そうな顔をしたが、フッと笑って言った。 「なるほど、それがおわかりですか。ならあなたの計画も上手く行きそうですね」 しかしハルヒ、ずるいぞ。俺にだけ一方的に声を届けるなんてな。 お前に声を届けたいのは俺の方だよ。 「かなり遠いな。まさか歩いて行くのか?」 「いえ、それでは時間がかかりすぎますから。ちょっと失礼します」 そう言うと、古泉はいきなり俺を羽交い締めにするように抱えた。 「おいっ! 何しやがる!」 思わず反論した俺に、古泉は軽口で返しやがった。 「おや、正面から抱き合った方が良かったですか?」 「ふざけんな!」 アホなやりとりをしている間に、目の前が赤い光でに染まった。 古泉が例の赤い球になったらしい。内部はこうなってるのか。 なんて考えた次の瞬間、ものすごい勢いで飛び立った。 「うおぉ!?」 早い、何てもんじゃない。生身で飛行機に乗っているようなもんだ。 ただし、赤い光のおかげか、風圧は全く感じられない。 眼下に流れていく景色を見て、思わず身震いする。古泉にばれたな畜生。 しかしこれはかなり怖い。こいつはいつもこんなことをやっているのか。 《神人》の近くにたどり着くまで、1分とかかっていない。 時速何キロだったのか、誰か計算してくれ。俺は考えたくない。 《神人》は、手近な建物から破壊を始めていた。 近くで見ると大迫力だ。映画みたいだ。 そんなのんきなことを考えている場合じゃない。 あの《神人》がハルヒの精神と繋がっているなら、声が届くのはここしかない。 《神人》の少し上を飛んでもらいながら、俺は大声で叫んだ。 「ハルヒーーーーーーーーーー!!」 しかし、俺の声は全く届いていないように、《神人》は破壊活動を止めない。 俺の脳内音声もますます活発だ。 いくらハルヒの怒声に慣れていても、さすがに凹んでくる。 時折少し離れて休憩を入れながら、俺たちは何度も《神人》に近づいた。 俺は何度かハルヒを呼んだが、《神人》は変わらず、何も起こらない。 周りの建物を殴りつけ、蹴倒し、踏みつけている。 閉鎖空間も広がっている、と古泉が言った。 畜生、やっぱりダメだったのか!? だんだん焦ってくる。 ──何やってるのよキョン! このへたれ!── あーもう、ハルヒ、うるせぇ少し黙れ! お前どっかで見てるんじゃないだろうな。俺が何をしたっていうんだよ。 「すみませんがそろそろ限界です。これ以上《神人》の破壊活動を放置すると厄介です」 古泉が焦った声で言った。 ここで《神人》を倒してしまっては俺がここまで来た意味がない。 次の閉鎖空間を待つ時間もない。 もしかしたら、次の閉鎖空間は生まれないかもしれない。 どうする? 俺は悩んだ。 ハルヒは俺を呼んでいるくせに、俺がここにいることに気がついていない。 いや、識域下では気がついているのだろう。だから俺に声を届けている。 今回は表層意識に残らないと意味がないのか。 仕方がない。一か八かだ。無理矢理意識を引っ張り出すほどのことが必要だ。 俺は最後の賭けに出た。 「古泉、最後にもう一度《神人》の頭の上を飛んでくれ! これが最後でいい!」 「承知しました」 《神人》の上に来ると、俺はもう一度頼んだ。 「古泉、俺を離してくれ!」 「何を言っているんですか!?」 「いいから離せ!」 「無理です!」 「大丈夫だ、ハルヒが、俺が死ぬことを望むわけがない!」 俺だけじゃなくて、お前もな、とは言ってやらなかった。 「わかりました」 しばらく悩んだ古泉が苦しそうに言った。 「ただし、あなたを離したら僕も一緒に下ります。危険と判断したら助けますから」 「悪いな」 確かに、古泉の飛行速度を考えたら、自由落下より先に俺の下に回り込めるだろう。 「たたきつけられて潰れるのは俺もごめんだ。頼んだぜ、古泉」 古泉に助けられなくても大丈夫だと思いたい。 古泉が俺を離して──俺は落下を始めた。 ハルヒ、信じてるからな! 恐怖を感じている暇はなかった。俺は目一杯大声で叫んでやった。 「聞こえてんなら俺を助けやがれ、ハルヒーーーーーー!」 俺の体は更に落下していく。背筋がぞくりとした。 このまま落ちたら、体なんか残らないんじゃないか──? ふわり。 衝突の衝撃もなく、いきなり俺の体は止まった。 ふぅーっと溜息が出る。さすがに緊張していたらしい。汗びっしょりだった。 今どこにいるか、確認するまでもない。 足下も、俺の目の前も青く光っている。 俺は神人の手のひらの上にいるらしい。 まるでお釈迦様の手のひらにいる孫悟空だな。 差詰め古泉はキン斗雲か。 気がつくと、俺の脳内ハルヒ音声もストップしていた。 聞こえていた方が会話しやすいから好都合だったんだがな。 それとも、こいつとまともに会話ができるようにでもなったのか? 俺は目の前にいる《神人》を見上げた。結構怖いのは秘密だ。 古泉は赤い球になったまま、俺の隣に来た。 「まったく、あなたは無茶をしますね」 ああ、自分でも驚いてるぜ。 「よう、ハルヒ」 俺は目の前の《神人》に普通に話しかけてみた。……ハルヒも《神人》も無言。 「なんか、俺が遅くなって怒ってるみたいだな。わりぃ。俺も色々あるんだよ」 相変わらずの無言。 「腹が立ってるんだったら、こんなとこで暴れてないでいつも通り俺にぶつけてみろよ」 我ながら恐ろしいことを言っている。こんなことをハルヒに言ったら最後、俺はどうなるか誰にもわからん。 そして、やはり俺は言ったことを少しだけ後悔することになった。 《神人》が、さらさらと崩れ始めた。 そう、俺を襲った朝倉が長門によって情報連結を解除されたときのように。 俺は呆気にとられてそれを眺めていたが、状況を悟ってめちゃくちゃ焦った。 おい、俺の足場も崩れてるぞ!!!! 古泉があわてて俺の腕を掴んだ。 しかし、俺の足下の青い光がなくなっても、俺はその場に留まっていた。 古泉は腕を掴んでいるが、ぶら下がるわけでもなく、まるでそこに立っているように。 すげぇ、俺も宙に浮いているぞ! この空間は何でもありか?? 「《神人》と我々超能力者の存在だけ考えてみても、何でもありでしょう」 古泉が言った。 《神人》が完全に消え去ると、俺の目の前に──── やっとだな。 たった1週間とは思えないほど長かったぜ。 一気にいろんな感情が俺を襲う。 いろんな思いが混じり合った溜息をひとつついて、俺はそいつに声をかけた。 「久しぶりだな、ハルヒ」 目の前に現れたのは、間違いない。涼宮ハルヒだった。 感慨にふけってる暇もなく、俺は先ほどまであった脳内音声の続きを聞かされることになった。 「こんの……バカキョン!!!!」 やれやれ、再会の第一声がそれかよ。ま、声はさっきから聞いていたんだが。 「遅いのよ、遅い!!! あたしがどんだけ待ったと思ってるのよ!!」 「いや、だから悪かったよ。さっきも言ったけどな、俺も色々あるんだよ」 「うるさいっ! あんたは団員としての自覚が足りないのよ!!!」 だから悪かったってば。しかし何だって俺はこんなに怒られてるんだ? そもそも、ハルヒは今の状況を疑問に思っていないのか? 古泉に聞こうと思って振り返ると、そこには誰もいなかった。 ──逃げやがったなあの野郎。 「凄く怖いんだから、不安なんだから! 何でだかわかんないけどっ!」 ハルヒは言いながらぼろぼろ泣き出した。 俺は黙って聞いているしかできない。 「あ、あたしが、あたしじゃなくなるみたいで、凄く、怖いんだから……」 「……もしかして、今もか?」 ハルヒは過去形でしゃべっていない。今もその恐怖と闘っているのか。 「そうよっ! でも、あんたがそばに居れば何とかなる気がして、ずっと待ってたのに……」 いや、俺はできる限りそばにいたんだよ。それが伝わらない場所でな。 俺だけじゃない。長門は文字通り四六時中そばにいたし、朝比奈さんもできるだけ一緒にいたんだぞ。 伝えられなかったけどな。俺もどうすればいいのかわからなかったんだよ。 やっと今朝、ギリギリになって気がついたんだ。 遅くなってごめんな。 しかし、こんな素直なハルヒを見るのは初めてだ。 どんなに怖い思いをしても、それを誰かに悟られるのを何より嫌いそうな奴だ。 今回のことはよっぽど怖かったんだろう。 辛かったんだろう。 「悪かった、ハルヒ」 そう言って俺は、泣いているハルヒを抱きしめた。 誰だってそうするだろ? こいつは不安と恐怖相手に独りで闘っているとき、俺にそばにいて欲しいと望んでくれたんだぜ。 それに答えないのは男じゃない、そうだろ? いくら俺がへたれだと言われても、それくらいはできるさ。 しばらく俺はハルヒが泣くままにしていた。 今まで我慢していた分、目一杯泣けばいい。 いや、閉鎖空間でストレス解消していた訳だから我慢はしてないのか? ま、でも泣けるなら泣いた方がいいのさ。 しかし、大事なことをまだ伝えていない。 ハルヒを助けるためには伝えなければならない。 この時点で、まだ俺は悩んでいた。 ハルヒの力を自覚させる俺の切り札。『ジョン・スミス』をここで使うか? それとも、今ここで使うべきではないか? 近い将来、この切り札が必要になるかもしれない。 もし、ここで俺が『ジョン・スミス』だと言わずに話ができれば、それに越したことはない。 俺は脳の普段は使わない部分まで動員する勢いで、急いで考えをまとめた。 「ハルヒ。聞いてくれ」 ハルヒは涙目で俺を見上げた。 「これは夢だってわかってるんだろ?」 さすがにこの異様な空間で異常な状況だ。 なんせ俺たちは宙に浮いているんだからな。夢だとでも考えなきゃおかしい。 「そうね……こんな灰色の世界、前にも夢に見たこと……」 そこまで言って顔を背けた。何か思い出しやがったな。 「俺は現実のお前と会いたい。だから、願ってくれ。現実の世界で俺に会いたいってな」 「キョン……?」 不思議そうな顔をして俺を見上げるハルヒに、俺は更に続けて言った。 「俺だけじゃない。長門や古泉に朝比奈さん、SOS団のみんなに会いたいだろ?」 ハルヒの表情が少し変わった。目に輝きが戻ってきたような気がする。 「ハルヒが本気で願えばかなうさ。こんな灰色空間じゃなくてな。 ちゃんと“現実の”あの部室で、みんなで会おうぜ」 しかし、ハルヒは目を伏せると意外なことを言った。 「あんたは本当にあたしに会いたいと思ってるの?」 おい、さっきからそう言ってるだろ。だからわざわざこんな灰色世界まで会いに来たんだぜ。 「そうね、でも……わからないわ。あんたの気持ちが」 俺の気持ち? ハルヒが何が言いたいかわからなくて、俺は黙っていた。 「どうせ夢だし、この際だから言っちゃうけど、あんたあたしにあんなことしたくせに、何も言ってくれないじゃない」 あんなこと……って、あれだよな、やっぱり。 だけどな、あれはお前が先にしただろうが! 「そうだけど、そうなんだけど、あんたが何であんなことしたかハッキリさせたいのよ! ハッキリしないのは嫌いなんだから」 「………」 とっさに言葉が出なかった。 ハルヒがわがまま、とかそう言うのではなく。 いや、わがままなんだけどな。先にキスしてきたのはお前だ、と声を大にして言いたい。 だけどな。つまりだ。 ハルヒは、1週間前まで俺が暢気に味わっていた中途半端さに嫌気がさしてたってわけか。 正直、俺はハルヒが俺の言葉を信じてくれると思っていた。 だから、この閉鎖空間でハルヒと話さえできれば、何とかなると思っていた。 くそっ 俺が俺の首を絞めているわけだ。 自分の暢気さがつくづく恨めしい。 ああ、1週間前の俺を本気で殴ってやりてぇ。 「すまん、ハルヒ」 ハルヒの目を真正面から見つめた。 「俺は自分をごまかして、このままでもいいかなと思ってたんだ。時間はまだあるってな」 ハルヒは俺を睨み付けていた。 こいつは未だ不安と恐怖がある中で、こんな表情ができるんだ。 やっぱりたいした奴だよ、お前は。 「この先は、ちゃんと現実でお前に会ったときに言いたい。だから、帰ってきてくれ」 「夢の中のあんたに約束されたってしょうがないじゃない。 だいたいどうやって帰ればいいのかわかんないわよ」 「だから、夢じゃなくて現実の俺と会いたいと願ってくれればいいんだよ。 大丈夫だ、現実の俺もお前に言いたいことがあるはずだ。夢でも現実でも、俺は俺だ」 わかるだろ? 前の夢の後のこと、あの部室でキスした日のことを思い出せばな。 ハルヒは少し考えてから笑って言った。 「いいわ、信じてあげる。あたしをこれ以上待たせるんじゃないわよ!」 やっと笑顔が見れたぜ。 そのセリフを最後に、ハルヒも先ほどの《神人》と同じように消えていった。 思い立ったら即実行だ。何ともハルヒらしい。 「ああ、待ってろ!」 消えていくハルヒに、俺はそう言ってやった。 「うわああああ!?」 ハルヒが消えると、俺の体も宙に浮いてられなくなったらしい。 おい、ハルヒ、最後のつめが甘いぞ!! さっき助けてくれたのにこれじゃ意味がないだろうが!! そのとき、古泉が俺の腕を取った。 「大丈夫ですか?」 ニヤケ顔で俺に聞いてくる。なんか含んだ顔でむかつく。礼を言うのがためらわれる。 「何か言いたげな顔だな」 精一杯渋面を作って言ってやった。 「いえいえ、見せつけてくれたなと思っただけです」 どこで見てやがった、この野郎。 俺と古泉は近くのビルの屋上に下りた。 「我々が神人を倒す必要がなかったのは初めてのことですよ」 古泉が大げさな感情を込めていった。 「機関から表彰したいくらいですね。ありがとうございます」 そんなもの要らん。 「これから閉鎖空間が生まれたら、あなたに来て頂きましょうか」 ふざけんな。今回は緊急事態だ。いつもそう上手く行くもんでもないぜ。 「それもそうですね」 閉鎖空間はすでに崩壊が始まっており、前に見たとおりに空にヒビが広がっている。 「まったく、あいつは思い立ったら即実行で、後のことなんか考えちゃいねぇ」 俺が文句を言っている間にもヒビが広がり……やがて一気に現実世界に戻った。 日常の喧噪が耳に響く。 何とかなったのか? 日の高くなった空を見上げて一息つく。 しかし、古泉の真剣な声が俺の安堵感を帳消しにした。 「13時20分です──長門さんの予告を最小でも5分過ぎています」 ──遅かったか? 7.回帰へ
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俺は植物園の南側に小隊を集結させていた。とはいってももはや無事な生徒は10名しかいなかったため、 学校から補充要員として送られてきた生徒10名を加えて総勢20名となっている。 現在の状況はこうだ。植物園北側は古泉の小隊が押さえて、敵の侵入を阻止している。 エスパー戦闘経験のある古泉の度胸はとてもよく、敵の攻撃をものともせずに押さえ込んできた。 一方の南部が問題だ。鶴屋さん部隊も俺たちと同じく包囲状態になり、完全に孤立してしまっていた。 さらにここ2時間近く連絡すら取れない状態に陥っている。そのため、長門の支援砲撃ができない。 闇雲に撃ち込んで、間違って鶴屋さんたちに当たれば本末転倒だ。 それを救出するべく俺たちは森との境界線に陣取っているんだが、 向こうも南部への移動を阻止するように抵抗が激しく、鶴屋さんの救出どころか、植物園から森に侵入すらできていない。 何とか森との境界にある小さい丘に身を隠し、敵の銃撃を受けないようにしているだけである。 「ガンガン撃ち込んでくれ、長門!」 俺は膠着状態を打開するために、徹底的に砲撃をさせていた。向こうが壁を作って通さないというなら、 こっちは完膚無きまでそれを破壊しつくまでだ。しかし―― 「だめだね。まだこっちに向かってガンガン銃撃してくるよ」 「どこに潜んでいやがんだ。さっきからあれだけ撃ち込んでいるってのによ!」 国木田の言葉に俺は吐き捨てるように怒鳴った。ここに来て、砲弾を受けても効果なしなんて言うインチキを 始めやがったんじゃないだろうな? また、目前で4発の迫撃弾が着弾した。轟音と砂が顔に降りかかってきたので、あわてて頭を下げる。 「油断するとヘルメットごと頭を持って行かれるかもね」 となりで物騒なことをひょうひょうと言うのは国木田だ。どうしてこいつはこんなに度胸が据わっているんだ? 俺はずれたヘルメットをかぶり直しつつ、 「砲撃で効果がないってなら、別の方法を考えないと――ん?」 そこまで言って気がつく。先ほどの着弾以降、敵側からの銃撃がぴたりと収まっていた。 ようやくクリティカルヒットだったか? 「よし……一気に前進するぞ。ついてこい」 俺は慎重に腰をかがめながら立ち上がり、丘を登り始める。同時に小隊全員がそろそろと俺についてきたが…… 「……ぶっ!」 情けない声とともに、俺は丘の下に引きずりおろされた。だれかに服を強引に引っ張られたようだが―― 同時に丘の向こうで悲鳴が飛んできた。さらに、身体に銃弾がめり込むいやな音と血しぶきも一緒にだ。 あわてふためいた生徒たちが次々と丘の下に飛び込んでくる。 「キョン、大丈夫かい!?」 俺を丘の下に引きずりおろしたのは国木田だった。何を考えているんだと怒鳴りそうになった瞬間、 その意味を理解する。頭の上を飛び越えていく銃弾の荒らしと、丘の向こうから聞こえてくる絶望的なうめき声を聞けば、 どんなバカでも理解できるはずだ。 答えは簡単。またしても、敵の罠に引っかかったのだ。砲撃の着弾と同時に、銃撃をやめる。 やったと思った俺たちがのこのこ丘を越えてきた時点で狙い撃ち。こんな単純な手に引っかかるとはバカか俺は! 俺はそろりと丘から頭半分を出し、どうなっているのかを確認した。そこには血まみれになった生徒二人が 倒れている。一人は突っ伏したまま動かず、もう一人は痛みのあまりうめいて手をばたつかせていた。 あまりの悲惨さに思わず身を乗り出して手を出そうとするが、それを阻止すべくまた敵の銃撃が始まる。 数発が負傷した生徒に命中し、さらなる悲鳴を上げた。奴らには情ってモンがないのか!? 「助けないと!」 俺は飛び出して行こうとするが、またも国木田に制止させられる。 「冷静に! とにかく、こっちも撃ちまくって向こうの頭を下がらせるんだよ。その隙に救出するべきだね」 「く……わかった。すまんが頼む」 国木田の案を受け入れて、俺は生徒たちに一斉射撃を命じた。全員一気に立ち上がるとそこら中の茂みに向けて乱射を始める。 敵側の銃撃が収まったことも確認せずに俺は丘から身を乗り出し、負傷した生徒を丘の下に引きずりおろした。 同時に動かなかった生徒を小隊の一人が同じように引きずりおろす。 俺が助けた方は、名前も知らない女子生徒だった。全身の銃弾を浴びて、傷だらけどころかぐちゃぐちゃだ。 「ハルヒ! 負傷者だ! ひどい怪我なんだ! 誰かよこしてくれ!」 『わかった! 何人か向かわせるわ!』 無線連絡後、ハルヒ小隊の何人かが、その女子生徒を回収していった。すでに瀕死の状態だったが、 それでもまだ生きている以上、こんな弾の飛び交う場所に置いては置けなかった。 「くそっ……」 俺は丘の下で座り込み、ヘルメットを取ってため息をつく。やりきれなさすぎる。 鶴屋さんたちを助けたいがどうすることもできない。無理につっこめば、こっちの犠牲が増えるばかりだ。 救出する方が損害大では意味がない。どうすればいい? いっそ鶴屋さんたちが自力で戻るのをここで待つか? 包囲状態とはいえ、そのままでいるわけもないし、こっちに移動してきているはずだ。 だったら、それを向かえ入れた方が…… と、突然そばにいた生徒から無線機を渡される。古泉からの連絡らしい。 「なんだ古泉。今はおまえの話を聞くような気分じゃないぞ」 『それだけ言えるならまだ無事と言うことですね。安心しました』 全然安心できねえよ。あっちもこっちもめちゃくちゃで、頭がおかしくなりそうだ。 いや、普段の俺だったらとっくにおかしくなっているだろうよ。ちくしょう、一体どれだけ俺の頭の中をいじくりやがったんだ。 『それはさておき、そっちの様子はどうですか?』 「その前におまえの方を教えてくれ。聞く前にまず自分から言うもんだろうが」 自分でもそれは違うだろと自己つっこみをしてしまったが、古泉は苦笑しているような声で、 『こっちはなかなか派手な状態ですよ。北部一帯で防御戦を引いて何とか敵の植物園侵入を阻止していますが、 向こうも焦っているんでしょうか、携帯型のロケット弾ぽいものを持ち出してきました。 さっきからそれの雨あられですよ』 それでも防御線を守りきっているのか。本当にたいした奴だな。ハルヒの見る目も。 『そろそろ本題に移りましょうか。どうやら、そっちは未だに鶴屋さんのところにたどり着けていないようですね』 「ああ、腹立たしいがその通りだ。敵の抵抗が厳しい上に、砲撃が全くきかねぇ。これじゃどうしようもない。 正直、侵入はあきらめて鶴屋さんが戻ってくるのを待ったほうがいいかと考え中だ」 『それは待ちぼうけになるからやめた方が良いですよ』 なに? それはどういう意味だ? 『ここに来るまでの間に、涼宮さんと鶴屋さんの無線連絡を耳に挟みましてね、いえ、盗み聞きしたわけではありません。 すごい剣幕で話しているからいやでも耳に届いたんですよ』 ハルヒと鶴屋さんが言い争い? 全く想像ができないぞ。どういうことだ? 『完全に聞いたわけではありませんが、大体想像がつきます。鶴屋さんは、目的であったロケット弾発射地点を 制圧するまで撤退するつもりはありません。たとえ、誘い込むための罠であってもです』 「うそだろ……」 俺は唖然としてしまった。さらに古泉は続ける。 『気持ちはわからなくないですね。あなたの方は、逃げた敵の掃討だったので、 罠とわかればあっさりと撤退が可能です。実際にそうなりましたしね。しかし、鶴屋さんの方は違う。 たとえ、罠であってもここで発射地点を制圧しなければ、北高への攻撃は続行されるでしょう。 結局はまた制圧に向かうことになる。それでは同じ事の繰り返しです。ならば、どんな犠牲を払ってでもとね。 できることなら犠牲を出したくないという涼宮さんとは完全に対立するでしょう』 ハルヒは自分で何でもやりたがるタイプだ。間違っても自分の作戦で他人が死にまくっても平然としているような奴じゃない。 そんなことになるくらいなら、ハルヒ自身がやろうとするだろう。今思えば、植物園にハルヒ小隊を置くと 頑固に言い張ったのも、指揮官が前線に出るなんてという考えと、できるなら自分が戦っていたいという考えの ぎりぎりの妥協点だったかもな。 そして、鶴屋さん。正直なところ、鶴屋さんの人物像はつかみづらい。すごい人であるという認識程度だ。 今回だって包囲状態に陥ってもなお発射地点制圧をすると強弁できるなんて常人には―― 待てよ? ひょっとして鶴屋さんは最初からこれが罠であるとわかっていたのか? 『僕もそう思いますね。鶴屋さんは罠の可能性を強く疑っていたのではないでしょうか。 だからこそ、たとえ罠だとはっきりしても目的を変更するつもりはない。そう言うことでしょう。 また、あの時、罠である可能性をしてきた僕の意見に対して何も言わなかったのは、 罠であろうがなかろうが関係ないということだったのでは』 鶴屋さん……あなたって人はっ……どこまで俺たちの上を行くつもりなんですか? しかし、そうなると未だに鶴屋さんが帰還しないと言うことは、制圧もできていないと言うことだ。 『そうでしょうね。だからこそ、あなたには鶴屋さんのところへ向かってほしいんです。 救出ではなく加勢としてね』 古泉の言葉で俺の腹は決まった。何としてでもここを突破する。それしかない。だが、どうすりゃいい? 『確証はありませんが、敵の動きは涼宮さんの性格を強く意識しているように思えます。 今回の待ち伏せを考えてみてください。敵は北山公園で待ちかまえると同時に、遠距離から北高を攻撃しました。 この場合、我々にはいろいろ選択肢があります。たとえば、こちらの砲撃で徹底的に北山公園南部を砲撃する―― これは長門さんが効果が薄いと言っていましたが。また、校庭にヘリコプターもありましたから、 あれで発射地点を確認し、少数部隊でピンポイントで叩く。砲撃に耐えながら、学校に完全に立てこもって 籠城という手段もありますね。考えればもっといろいろあるかと。 しかし、涼宮さんの性格上、確実に北山公園全土制圧を一番に考えるでしょう。 やられっぱなしなんてもっとも嫌がりますし、ピンポイント攻撃だと相手が逃げ回って延々と追いかけ回すことに なりかねません』 また頭上を飛んでいく銃弾が激しくなってきた―― 『このようにたくさんの可能性がありながら、敵は誘い込んで待ち伏せという手段をとっていました。 完全にこちらの動きを読んでね。涼宮さんの性格を知っているからこそ、迷わずにその手を採用したんです。 そして、自らが決定した作戦のせいでたくさんの犠牲者を出したことになれば、 涼宮さんに与えるダメージは半端ではありません』 「ハルヒの考えを読んでいたとは限らないだろ。敵はこれだけの世界を簡単に作り出しちまうんだ。 なら、俺たちは常に監視されていて、こっちの動きが筒抜けの可能性だってある」 『ええもちろんです。しかし、たとえそうであっても敵の目的が涼宮さんであることには違いありません。 それを最優先に動いてくるはずです』 なるほどな。なら敵はロケット弾発射地点を死守したりすることよりも、ハルヒに精神的苦痛を与えることを 最優先に考えているって事か。 『話が早くて助かります。敵の動きと涼宮さんの考えと照らし合わせれば、おのずと敵の動きも読めるのではないでしょうか。 今言えることはそれくらいですが――おっと、ちょっとこっちも活気づいてきてみたいですね。 あとはお任せします。ではまた』 そこまでで通信は終了。俺はサンキュと無線を持った生徒にそれを返す。 さて、どうするか。敵は砲撃ものともせずに、俺たちの鶴屋さん小隊との合流を阻んでいる。そこまで粘る理由は? そりゃ、包囲状態にした敵――鶴屋さんたちと増援の俺たちの合流を許すわけがない。いや待て、その考えじゃダメだ。 こうやって、俺たちが何もできずにただ時間がたっていることにハルヒは相当のいらだちを覚えるはずだ。 だから、こうやって俺たちの足止めを行っている……よし、この考えで良い。 そうなると、敵はできるだけ鶴屋さんの孤立状態に陥らせることに専念するはず。では、どうする? 「……ちっ」 結局、相手の考えを読んだところで何も変わらねぇ。敵の目的と俺たちの目的が完全にぶつかっているからだ。 なら、ここからの鶴屋さんの場所に向かうのはあきらめて、数名で北山公園のすぐ南にある光陽園学院に行き、 そこから北上して行くか? いや、敵は信じられないことを平然とやっているんだ。その動きを読まれて、 すぐに防御線が築いてしまう恐れもある。 だったら目的を変更してやればいい。俺の目的は鶴屋さんへの加勢なんだから……加勢に行かない? ふざけんな。 そんなまねができてたまるか。じゃあ、いっそ南部を手当たり次第砲撃するように長門に指示するとか……鶴屋さんを殺す気か? ん、ちょっと待てよ? ハルヒは全員の植物園までの撤退を望んでいるという。だが、鶴屋さんはそれを拒否して、 未だに発射地点制圧を行っているんだ。ならそれは敵にとって想定外の事態じゃないか? 鶴屋さんの後退を阻止するのではなく、発射地点を防御しなけりゃならないからな。 でも、発射地点は敵にとってさほど重要なものではないと思える。俺たちをここに誘い込むだけの利用価値のはず。 さっさと鶴屋さんたちに破壊させて、包囲状態にでも何でも置けばいい。だが、確信を持って言えるが、 鶴屋さんたちはまだ発射地点を制圧できていない。何の証拠もないが、無線連絡が取れなくても、 あの人なら何らかの手段で俺たちにそれを伝えるはずだ。絶対に。 俺はふとあることを思いついて、無線機を取る。話す相手は朝比奈さんだ。場違いな相手じゃないかって? だが、俺たちの中で一番鶴屋さんのことを知っているのは、朝比奈さんであることに間違いないだろ? 『キョンくん! 大丈夫なんですかぁ!?』 焦りきったマイエンジェルの声に俺はいくらかの癒しパワーを受け取ってから、 「ええ。何とかまだ生きていますよ。ところでちょっとお話が」 俺は今の状況を端的に話す。俺が知りたいのは鶴屋さんならどうするのかとか、 鶴屋さんならどのくらいできるだろうとかだ。 朝比奈さんはう~んといつも以上に悩みながら、 『そうですねぇ……わたしが言えるのは鶴屋さんは本当にすごい人です。だから、そんな危ない状況でも 簡単に抜けられちゃうんじゃないかなぁって思うんです。でも、何でこんなに時間が……』 今の会話に俺は何かを感じた。どこだ? すごい人の部分か? そんなことは俺もわかっている。 簡単に抜けられちゃう……ここだ。そうだ、包囲状態でも攻撃を続ける鶴屋さんなら 植物園までの後退は簡単にできるんじゃないか? だからこそ、敵は鶴屋さんを引き留めるために 発射地点を死守する必要がある。それなら、理屈が合うってもんだ。 『でもぉ……ひょっとしたら……』 「朝比奈さん」 まだ独白のように続ける朝比奈さんの言葉を遮り、 「ありがとうございます。おかげで考えがまとまりましたよ。すごく助かりました」 『え……えっ?』 何が何やらわからない朝比奈さんがかわいらしすぎてもだえそうになるが、ここは我慢だ。それどころではないからな。 「じゃあ、また学校で会いましょう。戻ります」 『待って!』 突然、朝比奈さんからせっぱ詰まった声が飛ぶ。 『鶴屋さん……いえ、みんな無事なんですか? ここからじゃ、一体何が起きているのかさっぱりわからなくて……』 今にも泣き出しそうな――いや、もう涙ぐんでいるのかもしれない声が無線機から漏れてきた。 俺はどう答えるべきかしばし考えた後、 「大丈夫ですよ。SOS団はまだ健在です。鶴屋さんもきっとぴんぴんしていますよ』 俺は事実だけを言った。でも、谷口は死んだとは言えなかった。 朝比奈さんは俺の言葉にほっとしたのか、 『がんばってください。また学校で』 そう言って無線を終了した。すみません、朝比奈さん。 そこに国木田が丘の下に滑るように降りてきて、 「で、キョン。どうするのさ」 「今はこのままだ。しばらくしたら絶対に変化が起きる。そしたら、こっちも動くぞ」 国木田は俺の自信めいた口調に疑問符を浮かべながらも、また丘の上の方に戻っていった。 これから起きることは二つだ。まず第一に鶴屋さんが発射地点を制圧する。そうなった場合、 あらゆる手段を使ってでも、俺たちにそれを知らせてくるだろう。次に鶴屋さんたちが全滅する――考えたくもないが。 だが、この場合は敵が発射地点の防御を行わなくなることから、植物園に対する攻撃の動きが変化するはずだ。 今はどちらかが起きるのを待つ。これでいい。 ◇◇◇◇ 変化は意外に早く起きた。俺が待ち始めてから15分後、一発のロケット弾が北山公園南部から発射されたという 長門からの無線連絡が入ったのだ。同じ頃に、南部でひときわ大きい爆発音がとどろいている。 ただし、発射されたロケット弾は 『こちらは攻撃を受けていない。確認した限りでは、北山公園から東側に向けて発射された。今までとは明らかに違う』 以上、長門からの報告。もう俺は即座に確信し、ハルヒへと連絡する。 「おい、長門からの話は聞いたか?」 『聞いたわよ! これは鶴屋さんからの敵制圧の合図に違いないわ! さっすがSOS団名誉顧問だけのことはあるわね!』 「ああ、俺もそう思う。で、俺はどうすりゃいい?」 『とにかく、あんたがぼさっとしている間に向こうはけが人とかでているに違いないわ。 とっとと助けに行きなさい! 以上、命令終わり!』 やれやれポジティブ思考が復活しつつあるようだ。でも、その方がハルヒらしくて安心できるけどな。 「さてと……」 敵はしつこく俺たちに向けて銃撃を続けている。これからどうするか。ハルヒは助けに行けと言った。 なら、敵はそれを阻止するように動くのか? いや待て、それでは今までと大して変わらない。 もっとも大きな精神的ダメージを与える方法は? 俺は結論を出したとたん、笑い出しそうになった。ひょっとしたら初めて敵を出し抜けるかもしれないと思ったからな。 また、俺は無線で長門に連絡し、俺たちの動きを阻止している敵にめがけて、10発ほど砲撃を行うように指示する。 そして、数分後的確な砲撃が俺たちの目前に降り注いだ。今まで以上の轟音に俺は耳を押さえて、鼓膜を守った。 着弾音の余韻が通り過ぎると、辺りに静寂が戻ったことを【確認】する。 「また罠かな?」 国木田は警戒心を表していたが、俺はそれを無視し、一人で丘の上に立ち上がった。 「キョン! 何をやって……え?」 抗議の声を止めたところを見ると国木田も気がついたらしい。まったく弾丸は飛んでこないことに。 俺はそのまま小隊の生徒たちを待機させたまま一人じりじりと前進し、森の中に数歩はいる。砲撃のすさまじさを 表すように地面が穴だらけになっていた。しかし、敵は一人もいない。 確認完了だ。俺は右手を挙げて、小隊を前進させて森に入らせた。 ◇◇◇◇ 「やあ……キョンくんひさしぶり……でも、ダメじゃないか……敵は……」 鶴屋さんの力ない声が耳に流れ込んでくる。ほとんどかすれ声だった。だが、言おうとしていることはわかる。 同時に俺の背後ですさまじい銃撃戦が始まった。俺たちが来た道から背後を突くように、 敵が襲ってきたからだ。だが、この攻撃をわかっていた俺たちにとって、それは背後からの攻撃にはならない。 完全に迎え撃つ準備はできている。 しばらく激戦が続いたが、やがて敵は長門の砲撃を受けて下がっていった。 「すごいね、キョン。何でわかったのさ?」 「俺だって学習能力ぐらいはあるんだよ」 国木田の指摘を軽く流して、俺は周囲を見回す。鶴屋さんがいたのはやはりロケット弾発射地点だった。 すっぽりと森に穴が開いたような場所に一台のトラックが置かれている。その上には ロケット弾を載せるための鉄レールを平行に並べ柵状にした棚が乗っていた。いわゆるカチューシャロケットと言われる 多連装ロケットランチャーだ。こんなもんで俺たちを攻撃していたとはな。 敵の動きは大体読めていた。ハルヒは鶴屋さんたちを助けに行けと言った。そして、敵はすんなりと鶴屋さんのもとに 俺たちを招き入れた。理由は簡単。今度は俺たちを包囲状態にするためだ。北山公園に俺たちを誘い込んだのと 同じ手法である。ハルヒが決定して、そのせいで俺たちが大損害、となればまたまたハルヒに与えるダメージはでかいと 踏んだのだろう。だがな、甘いんだよ。そうそう何度も同じ手が通用してたまるか。 だが、予想外なことも一つだけあった。最悪なものだ。 「ふふっ……そっかぁ……キョンくんも気がついたんだねっ……」 鶴屋さんは息も絶え絶え、寄りかかるように座っている木の根元には血だまりができようとしていた。 周りにいる鶴屋さん小隊の生徒4人も不安げな表情で見つめている。 そう、鶴屋さんは銃撃を受けて今にも息絶えようとしている。くそったれ! やっとここまで来れたってのに! 「鶴屋さん! ようやく来れたんです。早く学校に戻りましょう!」 俺は鶴屋さんを背負おうと彼女の肩に手をかけるが、そばにいた鶴屋さん小隊の生徒から制止される。 衛生兵の役割を担っていた彼は、動かせない。動かせば死ぬだけと沈痛な口調で言った。 「そんな……やっと目的を果たせたんだ! 連れて帰らないと! 大体、おまえら何で指揮官を守ってねえんだよ…… ってそうじゃねえだろ! くそっ! 何言ってんだ俺は!」 あまりの言いように、自分自身に怒りが爆発する。鶴屋さんは自分の配下の生徒たちを力なく見回し、 「責めないでよ……みんな必死にやったさ。無能なのはあたし自身。結局、守れたのはたったの四人だけっさ……」 鶴屋さん小隊の人間から聞いたことだが、植物園から南部に小隊が入ってすぐに攻撃を受けたらしい。 その後、包囲状態に置かれようとしたが、先手を打った鶴屋さんが小隊をさらに3~4人に分けて、 北山公園南部一帯に散らばせた。そのため、敵はその散らばった小隊を追いかけ回し、 鶴屋さんたちはロケット弾発射地点を探し回る。まるで鬼ごっこ+缶蹴りだ。 鶴屋さんたちは空き缶=カチューシャロケットを探し続け、ついに目的を果たした。 目的を果たしたと同時に、散らばった生徒たちは植物園に戻るように指示していたらしいが、 ハルヒに確認した限りでは誰も戻ってはいない。ここにいる生徒以外は全滅したと言うことだろう。 さらに鶴屋さんまでもが…… また、俺の背後で銃撃戦が始まる。しつこい連中だ。いい加減、あきらめろ! 「キョン、このままだとまた包囲されるよ」 「んなことは言われんでもわかるさ……!」 国木田の言葉に、俺は焦燥感だけが募る。このまま鶴屋さんをおいておけるわけがない ――今までさんざん【仲間】を置き去りにしてきただろ? わかっているさそんなことは……! 「行ってほしいなっ……わざわざあたしをえさにしている敵の思惑に乗ってほしくないにょろよっ……」 「わかっています……わかっているんです……!」 どうしても踏ん切りがつかない。だが、それでもつけなければならない。 俺は絶望的な思いで言う。 「つ、鶴屋さんっ……。朝比奈さんに……朝比奈さんに伝えることは……!」 のどが悲鳴を上げるほどに力んで言葉を出しているのに、それ以上口を開くことができなかった。 でも、鶴屋さんはそれを待っていたのか、にっと笑顔を浮かべて、 「悪いけどみくるにはだまっておいてくれないかなっ……きっと気絶なんかしちゃってみんなに迷惑かけちゃうかも」 「わかりました……!」 「あと、あたしの仲間も連れて行ってっ……最期の最期までバカみたいにあたしについてきてくれた大切な仲間っさ……」 「もちろんです……!」 もうここまで来ると俺は鶴屋さんの顔を見ることすらできなかった。受け入れられない現実を拒否したいのか、 耳すら閉じたくなる。 「じゃあキョンくん!」 突然、かけられたいつもの鶴屋さんの声。俺ははっといつのまにか下がっていた頭を上げると、 普段と変わらない笑顔を浮かべ、俺の方にぐっと腕を突き出した鶴屋さんがいた。 「また学校で!」 その言葉と同時に、鶴屋さんは全身の力が抜け落ち、頭も完全にたれた。元気よくつきだしていた腕も、 力を失って地面に向かって落下する。 すいません鶴屋さん。絶対に元の世界に戻ってまたいつものように騒ぎましょう。でも、ここにいて、 果敢に戦い抜いた今のあなたのことも絶対に忘れません……! 俺は目に浮かんでいた涙をぬぐい、周りにいた鶴屋さん小隊の残りを見回す。皆一様に指揮官の死に涙していた。 これは絶対に作られた感情ではなく、本人の本来の意志によるものだと確信できるほどに悲しんでいるのがわかった。 「これから、おまえらは俺の指揮下に入る。問題ないな?」 4人とも、潤んだ目をしっかりと俺に向けて頷く。 国木田たちと敵の戦闘はますます激しくなりつつあった。もはや一刻の猶予もない。 俺は無線機を持った生徒を呼びつけ、ハルヒに連絡する。 「おいハルヒ、聞こえるか?」 『何よキョン! 鶴屋さんたちのところについたなら、早いところ戻ってきなさい! 当然、鶴屋さんたちもつれてね! 30分以内じゃないと罰金――』 「鶴屋さんは死んだ」 俺の言葉でハルヒは絶句した。叫びたいのを必死にこらえるようなうめきと、何と言って良いのかわからないという 不安定な吐息が無線から流れ込んでくる。 「いいかハルヒ。これから俺が言うことに黙って従え。いいな?」 『…………』 「いますぐ、古泉たちをつれて北高に戻れ。俺たちが戻るのを待つ必要はない」 この言葉に激高したのか、ハルヒは砲弾の着弾音以上の声で、 『バ、バカなこと言うんじゃないわよ! いい!? あんたたちが戻るまで死んでもここを死守するから! 絶対に帰ってくるのよ! 絶対絶対絶対よ! 見捨てるなんて絶対にしないから……帰ってきて! 絶対!』 「良いかよく聞けハルヒ!」 俺の怒鳴り口調にびびったのか、錯乱状態だったハルヒの口が止まる。 「冷静に聞けよ。今、俺たちはまた敵に包囲されようとしているんだ。敵の狙いは、植物園に俺たちが戻るのを阻止すること。 今おまえが俺たちを放って学校に戻るなんて、敵は頭の片隅にすらねえはずだ」 『あんたたちはどうするつもりよ! 玉砕なんて死んでも許さないんだからね!』 「俺たちはこのまま北山公園を南下して、光陽園学院前に出る。そして、学校東側から戻る。 安心しろ。絶対に学校に戻るから心配するな」 ハルヒはしばらくぶつぶつと聴き取れない抗議めいたことを言っていたようだが、やがて、 『……わ、わかったわ……絶対に帰ってきなさいよ!』 「当然だ」 話し合いがまとまったので、俺は無線を終了しようとするが、 『待ってキョン!』 ハルヒがなにやら確認したいらしい。しかし、なかなか言い出せないのか、しばらくうなったような声を上げていたが、 『鶴屋さん……鶴屋さんはどうするの……?』 「……俺の口からいわせないでくれよ。すまん」 『……ゴメン』 そこで無線が切られた。おっと一つ言うことを忘れていた。 『……なに? まだなんかあるの?』 悪い知らせと思ったのか、びくびくとした様子が手に取るようにわかった。 「すまないが、朝比奈さんには鶴屋さんのことは言わないでくれるか? 鶴屋さんからの遺言なんだ。 万一、聞かれたときは――あー、足をくじいたから近くの民家で、このばかげた戦争が終わるまで隠れているって言ってくれ」 『了解……』 そこで今度こそ無線終了。さて、 「よし、このまま南下して学校に帰るぞ! ついてこい!」 俺の空元気な声が飛んだ。 ~~その4へ~~